注文その1

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    「え?」 体を離した瞬間。 俺は「じゃ、さよなら」と笑って帰っていく、しいなを想像していた。 だけど、しいなは笑ってもなく、帰っていこうともしなかった。 「う……う……そんなに……」 大粒の涙。 ひどく鼻をすすり上げる音。 化粧をしていたんだろうけど、それがぼろぼろになって落ちていく。 「しい……な?」 「そうだよね、そうだよね。でも信じて欲しいの。私、言葉じゃなくって本当に君の事を好きになったの」 可愛いと思ってた顔が、見るに耐えないくらいにくしゃくしゃになっていく。 それくらいに泣きじゃくるしいなに、俺は何かするどころか頭が真っ白になった。 ――何で泣いてる? ――俺、泣かせるような事をしたか? 「いや、契約より早く時間を終わらせようと言っただけで。何でそんなに泣かなくちゃいけないんだよ……」 「違うの、違うの! 商売だからじゃない。本当にね、好きになったから悔しいの! 私だって、利用してくれる人みんなを好きになる訳じゃない!」 何だよ、それ。 あまりにも理解不能な状況に、ついには考える事を放棄したくなってきた。    
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