23910人が本棚に入れています
本棚に追加
「う……ぇ……本当はね、言っちゃ駄目なの。利用規約にもね……その1。女の子の素性を聞いちゃいけない。私も本当の気持ちを話しちゃいけない。この時間はお客さんが買ってくれた、魔法の時間だから」
堪えても涙が止まらないのか、それとも今更誤魔化すつもりになったのか。
しいなは俺の胸の中に飛び込んできて、顔を服に押し付けた。
「お客さんとね、恋人ごっこをする商売っていうのは、賢治くんの言ったとおり。お客さんの要望どおりの女の子を演じるのもね、お仕事なの」
震える、小さな肩。
思わず俺は、その肩をぎゅっと抱きしめてしまった。
道の真ん中だというのに、まだ他の人間の姿は見えない。もしかしたら、俺達を気遣ってくれているのか。
俺は恥ずかしいとは思わず、強く肩を抱き続ける。
涙にあてられたのか。
……そうせずには居られなかった。
「賢治くんは勘違いしてる。好きになるのが仕事でも、心寄せない相手とはキスしない」
「で、でもな、俺と出会ってまだ1時間とちょっとだろ?」
しいなは俺の質問には答えずに、こう呟いた。
「賢治くんみたいな客ばっかりじゃない。恋人になるって事はね、気持ちを通じ合わせようとしなくて無理を通そうとしてくる人の方が多くなるという事なの」
最初のコメントを投稿しよう!