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「私も含めて、私達の仕事をしている人は五人。その誰もがね、望んでこの仕事をしてるの」
「望んで仕事をしてる?」
「うん」
俺の手をゆっくり離すと、その手は今度は俺の胸に添えられる。
「私達は、みんな心にトラウマを持ってるの。昔、彼氏に酷い目に遭わされたとか、何かの原因で人を好きになれなくなったとか」
「トラ、ウマ?」
「私もね。昔から男の子の事を好きになれない……ううん、例え好きになっても、長続きしない性格なの」
しいなは、まるで心臓の音を感じ取ろうとするかのように、ゆっくりと目を閉じた。
「好きになっても、相手の事を理解してあげられない。私の一言ですぐに傷つけてしまう。男の子ってプライドがあるのに、それを平気で踏みにじってしまう。プライベートは、そんな子なんだ、私」
だから、と言葉を続ける。
「だから、人を好きになるっていう、このお仕事をしたかったの。短い限られた時間だったら、私もその時間を大事にする為に、一生懸命相手の事を考えてあげられる」
相手の気持ちを理解してあげられない。
……俺と同じ。
だからさっき、心を見透かしたような事を言ったのか。
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