注文その1

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    握るのが当然のように差し出された手を、俺は握らなかった。 「賢治くん?」 「しいなは、それでお客さんを一生懸命好きになったつもりかも知れない。だけど、そんな愛、俺にはやっぱり迷惑だ」 「え?」 「2時間だけ相手を好きになるなんて、有り得ない……と思う」 「だから、違うって。他の人と賢治くんは違うの。私の体に手を出して来なかったし、こうして話も聞いてくれるし! だから2時間、好きになるのにぴったりの相手だと思って!」 「それで結局、2時間経てば他の奴と同じ様に、はいさよなら、かよ」 自分の声が、ひどく低く、落ちていくのが解った。 「悪ぃな! 俺な、本当に今までここまで女の子に好きって言われた事が無いからさ! 馬鹿だから、そういうお前の自己満足でも、嬉しいって感じてしまうんだよ!」 何故か解らない。 しいなの涙に釣られたか。 それとも、自分の情けなさにか。 俺自身の頬に、冷たい涙がボロボロと流れていくのが解った。  
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