凪にただよう

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もうひとり、珠美。 病院のベッドの上で看護師が声をかける。 「おはよう。今日もよろしくね」。食事の点滴がかけられ、体の位置をかえ、体をふいてもらう。どこかが痛くても声を出すことができない。だから不愉快さを伝えるには顔中の筋肉を歪めるしかない。 「気持ち悪いからすぐ取り替えますね」 細くなった両足をかかえ、浮かした腰のしたに新しいオムツをさしこむ。患者に負担のかからない手際のよさだ。 なのに今日は違った。 眉が震え、口が歪んでいる。微かに唸ってもいる。 異常を感じた看護師は急いで医師を呼び診察をあおぐ。 「いつからだったの? 患者さん、大腿骨、骨折してるじゃないかっ!」 珠美は 脳梗塞にはじまり、以来次々に病に襲われ、在宅療養もままならずついには要介護5での入院となった。 「なんとしても私が守る」頼もしい娘が時間のゆるすかぎり、母に寄り添う…。
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