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春樹との話を切り上げて共同スペースの扉を開けると何かが焼ける音と共にいい匂いが漂ってきた。
「あ、2人とも出てきた!零にぃ、お水そこの机にあるからね。春樹先輩は朝ご飯食べていきますよね?」
「刹那の手料理か。それは是非とも食べてみたいな」
「あ、大したものは作れませんからね!」
黄色いエプロンをしてキッチンから顔を覗かせた刹那とそんなやり取りをする春樹や、既に箸を持ってスタンバイしている刹那の同室者を目の端にとらえてぼんやりと考える。
ついこの前までは。刹那の手料理を食べられるのは俺の特権だった。一緒に寝るのも、一日中一緒にいるのも、俺だけのものだったのに。
刹那は俺の知らないうちに転校していて、更に俺の知らない所で沢山の友人をつくっていて。
俺は普段、家にいる訳じゃない。だからそれはおかしい事ではないのだろうけど。
春樹といつの間にか仲良くなっていたり。
俺だけの特権だったものが他の人間に許されていて。
俺以外の人間が刹那に特別な感情を抱くのかと思うと。
なにか、黒くてどろどろしたものが身体中をぐるぐる巡っているような感覚に陥るのは何故?
…俺はいつからこんな女々しくなったんだか。
何故か痛む心臓。
その痛みを紛らわすようにぎゅ、とシャツの胸の辺りを強く握った。
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