第一章第一節~平穏~

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 大きな戦が久しく無い昨今、剣を持つ人間は、はっきり言えば平和の妨げになるだけなのだ。  ホワイトハート家はロック郷の守衛を代々担ってきたが、段々と肩身が狭くなってきて、今では農家と称しても差し支えない。  訓練は怠っていないが、戦に出たことはクロもドモルも無かった。  殺生といえば、さしずめ猪や熊くらいである。 「それを言うなら、親父だって隣の家のレスターおばさんにメロメロじゃないか。母さんが生きてたら、きっとカンカンだよ」 「………!」  さっと顔に血の気をたぎらせて、ドモルはクロを食いつかんばかりに睨み付けたが、急に目を逸らして、種をまき始めた。  その顔にはもう血の色なんて無かった。  お互いに口を利かなくなり、種まきの仕事は黙々と進んでいった。  ようやく端に着いたので、折り返す列にクロも加わった。  小さな穴をいくつか開けて、種をそこへパラパラと注いでいくだけなのだが、中腰の姿勢が続くため、それなりに骨の折れる作業だ。  土の匂いを春風がそっと拭い去り、ほのかな花の香を運んでくる。  おそらく休憩をしている者達の物だろう笑い声が響く。  後悔と居心地の悪さを感じているクロに向かって、ドモルがふと口を開いた。 「エルザのことはもう言うな。流行病だったんだ」 「…うん、それもわかってる」  春の日差しは強く、クロは額に流れた一滴の汗を拭った。
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