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三年前、ロック郷で原因不明の病が流行った。どんな薬草も効かず、発症した者は百名に上り、そのうち二人が命を落とした。
クロの母親とヴィナの父親であった。
高熱と全身を貫く痛みに苦しみ、最後は白痴になって、眠るように息を引き取っていった。
発症から末期まではわずかに十日間。クロとドモルは満足に別れの言葉も言えなかった。
そもそも、エルザは自分を看病している人間が誰なのかもわからなくなっていたのだから、どんな言葉も届かなかっただろう。
億万の言葉を連ねても、ただ億万の涙を流すことになっていただけだろう。
意味なんてどこにもない。
まだ15歳になる前だったクロにはどうやっても受け入れ切れない別れであった。
本当に仕方なかったのか。都の魔法薬を使えば助かったのではないか。
しかし、ロック郷から都「ウィンドミル」までは早馬でも往復だけで十日掛かる。
どう転んでも希望はなかったのだ。彼の頭だって、とうに理解していた。
だが、胸のうずきは、濁った沼のように透き通ることなく、奥底にやるせない思いを積み続けている。
「――う、おい、クロ坊」
「え?」
肩を揺すられて、クロは振り向いた。
口を覆っている髭をいじりながら、ドモルが立っていた。
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