第一章第一節~平穏~

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 すべてが白に呑み込まれる。  空の青も、草木の緑も、花の黄も、何もかもが白純に帰す。  その中、クロはしっかりとヴィナの腕を掴んでいた。  少女はその手を頼りに彼のもとに飛び込む。  少年は彼女を抱き止める。  白光の世界で、剣がひとりでに浮かび上がり、クロ達の前に進み出てきた。  すると、剣の手前の、何もないはずの中空が突然燃え上がった。  しかし、火は拡散せず、段々と収束していき、やがて十行ほどの文章らしき物を象ったところで止まった。  赤々と示されている文字は、しかしクロには全く読めないものである。  エスタシアで使われている言語は、種族によって多少は分かれているものの、千年前の大戦以来の統一言語である。  つまり、クロが全く読めないということは、少なくとも統一言語やヒューマン語ではないということであった。  彼にとっては、もはやそれらが文字なのかさえ不安な有様である。 「……王の剣?」  だが、混乱しているクロの腕の中で、じっと文字を見つめていたヴィナはそう呟いた。 「え?王がどうかし――」  彼の言葉はそこで途絶えた。  辺りを包んでいた光が爆発音と共に吹き飛んだのである。  久しぶりの黄色、緑色、青色が世界を包んだが、クロとヴィナはそのまま意識を失った。  こうして、始まりは訪れた。
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