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すべてが白に呑み込まれる。
空の青も、草木の緑も、花の黄も、何もかもが白純に帰す。
その中、クロはしっかりとヴィナの腕を掴んでいた。
少女はその手を頼りに彼のもとに飛び込む。
少年は彼女を抱き止める。
白光の世界で、剣がひとりでに浮かび上がり、クロ達の前に進み出てきた。
すると、剣の手前の、何もないはずの中空が突然燃え上がった。
しかし、火は拡散せず、段々と収束していき、やがて十行ほどの文章らしき物を象ったところで止まった。
赤々と示されている文字は、しかしクロには全く読めないものである。
エスタシアで使われている言語は、種族によって多少は分かれているものの、千年前の大戦以来の統一言語である。
つまり、クロが全く読めないということは、少なくとも統一言語やヒューマン語ではないということであった。
彼にとっては、もはやそれらが文字なのかさえ不安な有様である。
「……王の剣?」
だが、混乱しているクロの腕の中で、じっと文字を見つめていたヴィナはそう呟いた。
「え?王がどうかし――」
彼の言葉はそこで途絶えた。
辺りを包んでいた光が爆発音と共に吹き飛んだのである。
久しぶりの黄色、緑色、青色が世界を包んだが、クロとヴィナはそのまま意識を失った。
こうして、始まりは訪れた。
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