45人が本棚に入れています
本棚に追加
曖昧な意識が覚醒し、クロは自分が村長の家の居間に寝かされていることに気付いた。
長椅子を丸々一つ使って、その上に横たわっている。
「気がついたかい?」
傍らにはレスターがいた。起き上がる彼の背に手を添えて、クロが状況を飲み込むのを待っている。
落ち着き無く視線を方々に走らせてから、クロは一度目を閉じ、ゆっくり開いた。
そして、レスターの顔を見つめる。
「ヴィナは?」
「奥にいる」
その問いを予期していたらしく、レスターはきっぱり答えた。
早速向かおうと腰を上げたクロは、しかしレスターがベルトを掴んだために、すとんと尻を着くことになった。
「…え?」
当惑した様子でクロは振り返る。
毅然とした態度のレスターは一度首を振って、彼の両肩を押さえた。
「あんたはここで待つ。エゾ翁の申し付けなんだ。悪く思わないでくれ」
クロは一層混乱した。
エゾ翁こと、グーム・エゾはロック郷の村長である。最長老ながらもかくしゃくとした老練だ。
クロの父親、ドモルはかつて村一番の悪童であったが、エゾ翁にだけは殊の外素直であり、慕っていた。
エゾ翁もドモルを我が子のように扱っていたので、その子供であるクロは孫も同然と言っていい。
だから、村長の家はクロにとって第二の我が家であった。
その彼が居間の奥、翁の私室の立ち入りを禁じられるなど、滅多にない事態である。
最初のコメントを投稿しよう!