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クロは彼女の話に聞き入り、一言も聞き漏らすまいとしていた。
ドモルはあまり物を教えることに長けていないので、このようにクロの教育を務めたのは専らエゾ翁やレスター、そして他の村人であった。
だが、それでもレスターの言う「千年前の大戦」は耳に新しいものであった。
皆、お伽話だ、絵空事だと言う割に、なかなかその実を話そうとしなかったのである。
まるで触れてはならぬ禁忌であるかのように。
「剣の戦いというのは初耳です…」
「ああ、気にしなくていいさ。何と呼ぼうと戦は戦だからね」
肩をすぼめるクロに彼女は笑顔を見せたが、目だけは鋭いままである。
「でも、これはちょっと事情が違う話になる。あんたは父親からなんて教わった?大戦のことについてさ」
クロは記憶を辿り、父親から剣術以外に教わった数少ない物から一つを思い出して、努めて冷静に説明した。
「大陸の北東にある山脈、グール山脈の向こう側一帯に広がる闇の国が、オーク族や魔族を従えてエスタシアを支配しようとしたのが原因だった…、おばさんが言った通りのことしか教えられてません」
彼は正直に喋り、レスターは二、三度頷く。
「それで十分さ。本当のことなんだから。でも、ならばどうしてネスダルクの王、ガルディウスは世界に刃向かったか知ってるかい?どう考えたって不利な戦いだったのに」
言われてみれば不思議なことであるが、戦争を経験していないクロには戦争の理由なんて想像もできないし、聞かされてもピンとこない。
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