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難しい顔で考え込んでしまったクロの肩をポンポンと叩いて、レスターは話を続けた。
「いや、わからないのが当たり前だよ。そう落ち込みなさんな。まさか、世界中を引っくり返した戦がたった一本の剣によって始まったなんて、誰も考えつかないからね」
「剣?一本だけ?……待ってください。え?まさか、そんなこと…」
有り得ない連想が彼の脳内で展開された。
しかし、それはとても現実的と言えず、例え正解でも、どうして戦が起きたのかという問いには答えられないとクロは思った。
「すみません。変なことを言いますけど…、もちろん、こんなことは有り得ないと思いますけど、…その剣って、僕達が拾ったあの――」
「それを判ずるには、まだ時期尚早と言うべきじゃ」
クロとレスターは同時に振り向いて、居間の奥から出てきた老人、エゾ翁を視界に捉えた。
白髪と喉が隠れるほど伸びたひげ、ボサボサの眉、猫背の立ち居振る舞い、年季の入った杖、あらゆる要素が彼を村一の長老として表していたが、依然としてその眼はたるんだ瞼の奥から輝きを放っている。
翁は二人をゆっくり見回し、クロに向かって手招きをした。
「来なさい。お前の話も聞きたいでな」
言って、エゾ翁は踵を返して再び居間から消えた。
「相変わらずしっかりしてるねえ。うちの父親も見習ってほしいもんだ」
彼女は腕組みをして鼻で笑った。次いでクロを見やり、村長の私室を顎で指す。
「早く行きな。ヴィナちゃんが心配なんだろう?」
意地悪い笑みを浮かべて、レスターはエゾ翁の私室とは反対方向に向かい、そこにある扉から出て行った。そちらは出口である。
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