第二節~千年来の災い~

7/12
前へ
/156ページ
次へ
 しかし、この時の彼にとって、そんな事は全くの些事であった。  彼女が抱えている一本の剣が、彼の好奇心を掴んで離さない。 「あまり、それに見入ってはならん」  クロの姿を見もせず、エゾ翁はぴしゃりと諫めた。  クロはぴくりと肩を震わせ、視線を剣から引き剥がして、エゾ翁に体を向ける。 「エゾじいさん。あの…僕に聞いても、意味ないと思うよ。何が何で何だったのか、全然わからないんだから」  彼が申し訳なさそうに言うと、エゾ翁は一段らしくしたらしい羊皮紙を机に置いて、次いで微笑みをクロに向けた。 「ほう、奇遇じゃな。実は儂も、何が何で何だったのか、さっぱりわからんのよ」  翁は呆気にとられているクロから、憮然とした様子で座り込んでいるヴィナに目を移した。  そして、彼女の抱えている物を一瞥して、ゆっくりと口を開く。 「しかし、どんな結果を招きうるかは知っているつもりじゃ」  クロもつられるようにヴィナを見つめる。  無言のヴィナは綺麗なブロンドの髪を揺らして立ち上がり、退出の言葉を一つさえ口にしないまま部屋から出て行った。  追おうとしたクロを翁はのんびりとした口調で止める。 「よいのじゃ。お前が来たらば退出するように言いつけておったからの」  クロが改めて部屋の真ん中まで来たとき、エゾ翁は机上から羊皮紙を取り上げて、手早く巻き取って立ち上がった。 「物見櫓(ものみやぐら)に上がってみようかの。儂は高いところが好きなんじゃ」 「え?そうだっけ?」  目を丸くするクロを置いて、翁は器用に本の山をかいくぐって部屋から消えた。
/156ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加