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突拍子もない行動に戸惑いながら、彼はエゾ翁を追った。
翁の家には、まるでとんがり帽子のようにひょろりと抜き出た木組みの塔があった。
高さ10mの物見櫓である。
櫓の屋根には鐘が設置されており、それで時間や召集を伝えていた。もちろん、鐘を叩くのは使用人だが。
村長室の傍らから延びている螺旋状の階段は櫓にしか通じていない。面積こそ大きいが、村長の家は他と変わらぬ平屋だ。
その階段を上がったクロを、難しい顔のエゾ翁が待ち受けていた。
「お前が見た火文字とは、これではなかったか?」
何の前置きもなしに翁はクロの眼前に持参していた羊皮紙を突きつけた。
一瞬戸惑ったクロは、しかし冷静に紙を見つめて、そこに記されている十行の文字群らしき物を注意深く眺めた。
そして、まさにそれが、先程自分とヴィナが目にした火文字であることを確信した。
「うん。たぶん…いや、間違いなく同じだよ。全部は覚えていないけど、形と大体の並びは覚えてるから」
「ふむ。そうか…」
眉間に深いシワを刻みながら、エゾ翁は羊皮紙を敵か何かのように睨んでいる。
そんな顔を見たことがないクロはただ翁の次の言葉を待った。
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