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しばらく紙を見つめていたエゾ翁は、それを再び巻き取って、くつろぐように櫓の手すりに寄りかかった。
そして、未だに光を失わないその青い瞳をクロに向けて、一度溜息を吐いた後、口火を切った。
「その昔、神は一本の剣を作った。絶対の力を持った唯一無二の剣じゃ。その剣は有象無象を凌駕し、魑魅魍魎を統括したという。当時は統一言語もなく、種族同士の争いが絶えんかった。それを見かねたのじゃろうて。結果的に世界は剣の脅威に対して一致団結したわけじゃから、見事に神の見越し通りになったわけじゃな」
剣に絡んで大戦の話をされたことがないクロは熱心に翁の話に聞き入っている。
老人はそんな少年の顔をどこか哀れみを込めて眺めていた。
「世に広く―といっても御伽草子の類じゃが…―知れ渡っているのはごく一部に過ぎん。冥王ガルディウスは滅び、一本の剣は消えたとな。しかし、火文字や、その剣が実在したとは明かされていない事実じゃ」
クロは先程の羊皮紙にあった、あるいは今日の正午に見た火の文字を思い出し、ヴィナのことが妙に気になった。
エゾ翁は巻いた羊皮紙を示し、呪いのように暗唱を始めた。
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