第二節~千年来の災い~

11/12
前へ
/156ページ
次へ
 千年前に消えた一本の剣、突然片田舎の草原に現れた一本の剣、その間にどんな関係があるかなど、クロには想像も及ばないが、エゾ翁やレスターには、具体的ではなくとも大まかな予想が立っているのかもしれない。  まだ18歳を迎えていない(ヒューマン族のしきたりでは18歳から一人前の大人)彼ではあるが、あの剣が何らかの力を秘めていることは直感で理解できた。  胸の奥、骨の髄、精神の根幹を揺さぶるような。  過去をなぎ払い、未来を吹き飛ばし、現在を打ち消すような。  圧倒を、絶対を悟る。  だからこそ、クロは笑わずに話を聞いていられたのだ。あの剣を見たことがない者にはまやかしに過ぎないだろう。 「あの、エゾじいさん、それなら、どうして誰も剣のことを本当だと思ってないの?なんで作り話なんかに――」 「当時の王達が、誰も信じず、また、知っても益はないと判断したのよ。強大な力は常に争いの種となり、さらなる力が抑止を働き、より強い力が反発し…と、際限がない。加えて、一本の剣も都合よく消えてしまったからの。作り話として生かすだけに留めたのじゃ。人は事実よりも個人の信仰を優先させる。神の御言葉ならちょうどいい戒めだったわけじゃ」
/156ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加