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エスタシア紀元1028年の3月。
ウィブレイルの四分が一の村、ロック郷の草原に一人の少年が横たわっていた。
風の国「ウィブレイル」は大陸「エスタシア」の南東から東の域を占める国である。
四季折々の風が吹くこの国では土の国「ガイクェイル」と並んで作物の実りが豊かであった。
春の風が吹き込んでくる3月。農村であるロック郷はそろそろ忙しくなってくる。
本来なら種まきのために村人のほとんどが駆り出されるのだが、中には仕事から逃げる者もいる。
周りに誰もいない草原に一人で寝ころんでいる少年が、まさにそれであった。
名はクロ・ホワイトハートという。
怠け者ではないが、仕事熱心でもない。
現に種まきは滞りなく進んでいるので、彼のことは逃げたというより余ったと称すべきかもしれない。
とにもかくにも、黒色の髪を風に揺らしながら昼寝をしているクロの寝顔は幸せそうである。
その彼に近付いてくる人影があった。
サクサクと草を踏みしめて、カサカサと菜の花を避けて、その人物はぐんぐん歩み寄ってくる。
知らずに眠り続けているクロの傍らに、とうとうその人物は立った。
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