第一章第一節~平穏~

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 三月に入ったロック郷には溢れんばかりの菜の花が咲き誇る。それゆえに、草原は瑞々しい黄色に覆われる。  畑では小麦やオリーブ、オレンジの栽培が始まる時節である。郷を支える貴重な財源であるため、村人は一つ一つの作業に余念がない。  草原から畑に向かって延びている道を走り、腰ほどの高さの石垣を飛び越えて、クロは畑の中に躍り出た。  せっせと働いている人達は見向きもしなかったが、畑から外れて小休止しているらしい人々は手を挙げて彼を迎えた。  クロも手をひらひらと振ってそこへ向かおうとしたが、畑から野太い声が飛んできて、彼の歩みを止めた。 「クロ坊!サボってねえで手伝え!」  大柄な男性が、これもまた太い腕を振り上げていた。  クロは肩を落とし、諦めて畑の中に入っていった。  小麦を栽培している畑のため、他の畑のように木は茂っていない。  しかし、自給用の作物であるから、村人はとりわけ大切に扱っている。  まだ土がむき出しではあるが、夏を過ぎる頃には黄金色に染まっていることだろう。
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