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三月に入ったロック郷には溢れんばかりの菜の花が咲き誇る。それゆえに、草原は瑞々しい黄色に覆われる。
畑では小麦やオリーブ、オレンジの栽培が始まる時節である。郷を支える貴重な財源であるため、村人は一つ一つの作業に余念がない。
草原から畑に向かって延びている道を走り、腰ほどの高さの石垣を飛び越えて、クロは畑の中に躍り出た。
せっせと働いている人達は見向きもしなかったが、畑から外れて小休止しているらしい人々は手を挙げて彼を迎えた。
クロも手をひらひらと振ってそこへ向かおうとしたが、畑から野太い声が飛んできて、彼の歩みを止めた。
「クロ坊!サボってねえで手伝え!」
大柄な男性が、これもまた太い腕を振り上げていた。
クロは肩を落とし、諦めて畑の中に入っていった。
小麦を栽培している畑のため、他の畑のように木は茂っていない。
しかし、自給用の作物であるから、村人はとりわけ大切に扱っている。
まだ土がむき出しではあるが、夏を過ぎる頃には黄金色に染まっていることだろう。
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