第一章第一節~平穏~

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 人々は一列に並んで種を植えている。  その列から、ぬっと一人だけが直立して、とぼとぼと歩いてくるクロを睨んでいた。 「ちょっと目を離したらこれだ!ったく、俺がお前くらいの時はなあ、頼まれなくても色々と――」 「わかったよ、わかったから、僕の分をちょうだい」  説教を遮って、クロは手を突きだした。  男は苦々しく舌打ちをして、腰に提げていた二つの麻袋の一つをその手に荒っぽく乗せた。 「一度向こう端に着いてから列に入れ。今始めたら足並みが乱れるからな」 「それだってわかってるよ」  再び種を撒き始めた男の隣をクロはゆっくり歩いてついていく。 「またジオディのお嬢ちゃんにケツを蹴飛ばされてきたのか?」  半ばまで進んだところで、男はからかう調子で口を開いた。  対して、クロは眉根を寄せて視線を明後日の方角に投げた。 「やっぱり親父だったのか。しょうもない噂を流してたのは」 「実際にそうじゃねえか。尻にしかれといてよく言うぜ。情けねえ息子を持っちまったよ、俺も」  ひどく粗雑な口の利き方をするこの男はクロの実父であった。  名をドモル・ホワイトハートと言い、村の守衛を務めているが、実務は現在のように畑仕事の手伝いである。
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