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人々は一列に並んで種を植えている。
その列から、ぬっと一人だけが直立して、とぼとぼと歩いてくるクロを睨んでいた。
「ちょっと目を離したらこれだ!ったく、俺がお前くらいの時はなあ、頼まれなくても色々と――」
「わかったよ、わかったから、僕の分をちょうだい」
説教を遮って、クロは手を突きだした。
男は苦々しく舌打ちをして、腰に提げていた二つの麻袋の一つをその手に荒っぽく乗せた。
「一度向こう端に着いてから列に入れ。今始めたら足並みが乱れるからな」
「それだってわかってるよ」
再び種を撒き始めた男の隣をクロはゆっくり歩いてついていく。
「またジオディのお嬢ちゃんにケツを蹴飛ばされてきたのか?」
半ばまで進んだところで、男はからかう調子で口を開いた。
対して、クロは眉根を寄せて視線を明後日の方角に投げた。
「やっぱり親父だったのか。しょうもない噂を流してたのは」
「実際にそうじゃねえか。尻にしかれといてよく言うぜ。情けねえ息子を持っちまったよ、俺も」
ひどく粗雑な口の利き方をするこの男はクロの実父であった。
名をドモル・ホワイトハートと言い、村の守衛を務めているが、実務は現在のように畑仕事の手伝いである。
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