第01章

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クロを見て、随分と懐かれていると思う。 出会った時はビクビクと誰にでも脅えていたが、今では人懐っこい性格をしている。 まあ、今年で7,8才になるだろうこの黒いのにこの子と呼んでいいのか分からないが。 犬の年齢でいうとヨボヨボの老人であるクロは老いという言葉を知らないのか、というほど妹の薫に似ている。 本当に“犬”ならば、だが。 名前に負けないほど素晴らしく黒くてふさふさ とした尻尾を嬉しそうに振りながらワンワンと吠える。 せかしているのだろうか。 それこそ、“犬”らしく早く早くと訴えかけてくる。 出会った頃から、さほど大きくも小さくもならないこいつはこの世界の住民ではない。 『ゲート』と呼ばれる不思議なそれの中。 私たちが『エデン』と名付けたそこは、この地球とは別の空間になっている。 かつて、初めて入った日特の調査隊は始め、人類の新発見だと喜ぶ連中、もっと早くゲートが出現してくれていたらと戦争でこの世を去った同胞の事を寂しげに思い浮かべる被害者、未知の世界に顔を輝かせる者。 様々な感情が入り乱れた調査隊だったが、彼らの仕事をし始めて数日後、彼らのバラバラであった想いが一つになる。 こんなところがあってはならないと。
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