第01章

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このようなやり取りは今に始まったことではない。 ついこの間も、今みたいな言葉のキャッチボールができていないことがあった。 最近だと、当番制でしているクロの散歩を代わって。といったものや、酷い時になると、夏休みの宿題これ一冊分全部よろしく、とか。 もちろん、嫌な気持ちはあった。 しかし、なんだかんだぶつぶつと文句を言う私だが、しっかりと頼まれてしまうのはやはり姉としての性分なのだろうか。 だが、今回ばかりはマズい。 非常にマズい。 妹が言ったように“あそこ”は特別な人でないと入れない場所。 現在、“普通”の人として生活している妹の薫とその母親である葵はもちろんのこと、関係していない人を入れてはいけない、と“あそこ”にいる人々にとっては暗黙の了解になっている。 その理由は人それぞれなのだが、やはり、知られてはいけないというのが一番の理由になっているのではないだろうか。 もし、それを破るような事があれば、あのお堅い糞爺が耳をふさぎたくなるほどガミガミ言ってくるし、上司のあの御方がお仕置きとか言って何をするかわからない。 こちらとしては、たまったものではないのだ。 「だから、連れて行ってくれるんでしょ?日特」 「いやいや、薫…。それは駄目だって。いつも、無関係者は入っちゃダメだっていつも言ってるでしょ。いくら私でもそれはダメ。」 「知ってる?お姉ちゃん。“女“に二言はないんだよ。」 「それを言うなら“男”でしょ。 …まったく、しょうがないんだから。また今度よ?見つかったら怒られるのは私なんだからね。」 してやったり、といった顔をしていた薫の誤った言葉を私が訂正するが、それは確信犯だったらしい。 「うん。それは分かってるよ。それじゃあ、大丈夫な日、あらかじめ教えといてね。私、空けとくから。」 先ほどの不安そうな顔を一変させて、こんどはキラキラと輝いているような笑顔でそう答える。 やっぱり、頼みごとする時はお姉ちゃんの寝起きだね、とか言って台所で朝食の片付けをする母の方に食べ終わった食器を持っていく薫。 そんな姿をみて、 「はぁ…」 今生で何度目か分からないため息をついた。
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