第01章

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丁度、その年くらいからだろうか。 アメリカの実験のために落とされたといわれている原子爆弾、通称アトムボーイ。 その膨大な被害から立ち直りつつあった広島の某所に“それ“が突如現れたのだ。 巨大な扉の形をした“それ”は不気味な模様が描かれており、不幸の象徴を表しているようだった。 昔のお偉いさんは、その不気味な“それ”を『ゲート』と名付けた。 名の通り、やはり“それ”は扉だったからだ。 興味本意で“それ”を眺めていたらしい第一発見者の男性曰く、家一戸分の大きさの“それ”が何の前触れも無くその姿に見合うようなギギギギギ……という耳を塞ぎたくなる音を立てて開きだしたらしい。 流石に恐ろしくなった彼は、開ききる前に逃げ帰り、第一に警察に電話をかけ怒鳴るように通報した。 初めは怪しく思っていた広島県警だが、入社したばかりの新人を“それ”の元に派遣したところ、彼らの考えが180度変わった。 いや、変えざるを得なかったといったほうが正しいかも知れない。 彼の報告書によると、推定高さ5メートル、横幅3,5メートル、奥行き1メートルほどの不気味な扉のようなもの(実際は扉なのだが)が、写真とともに詳しく述べられていた。発見者の通報時には“それ”は開きかけていたらしいが、報告書に載っていた写真はしっかりと閉ざされていた。 彼のそれを読んだ彼らは戦慄した。 なんせ、つい前に戦争によって本当にたくさんの人が殺されて、今でも、放射線によって職場の誰それの親族が亡くなった、とか悪夢みたいなことがちらほらと起こっているのだ。 やっと戦争の悲劇から抜け出せたと思ったとたんこれだ。 悪夢の中の日常を歩いていたが、人類はどうして悪夢の中の非日常を進みだしてしまったのだ。
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