第一章

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彼は、運命が何か知らなかった。 彼にとって、運命など無いに等しかったからだ。 「運命が無い」訳では無い。ただ、ひたすらに、何もしなかっただけだ。 彼にとっては、何もしない事こそが、運命なのかも知れない。しかし、彼は運命が何か分からなかった。 運命が定められているのならば、「何もしない運命」を彼が持っているのでは無い。 何故なら、彼は、「考える」と言う行動をしているからである。 しかしながら、彼は「運命」が何か分からなかった。 いくら考えても、運命と呼ばれる物が分からないのだ。 彼は、辞書を引こうと思った。彼の辞書には、こう書いてあった。 「元から定められている巡り合わせ」 彼には、「運命が何か」分からなかった。 「命運」を彼は調べた。 「そのことの存続にかかわる重大な運命。」 彼は分からなかった。 理解が出来ない訳では無い。 彼がこうして、今ですら部屋から動こうともせず、食べて、寝て、考えてを繰り返す生活をしている事が、"神から定められた運命"なのかもしれない。 しかし、彼は、「運命」が分からなかった。 もしも、このまま「運命に身を委ねる」ままだと、彼は一生涯、この部屋で過ごす事になる。しかし、彼はこの部屋を出たくない訳では無い。 彼は「動きたく無い」だけなのだ。 つまり、「この部屋から出る為に関わる重大な運命」を彼は行おうとしないのだ。 彼にとって、この部屋から出る事は未知の世界への旅立ちであり、「知らない事を知っている」彼にとっては、冒険なのである。
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