第一章

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彼は、「知らない事を知っている運命」だったのだ。 しかし彼にとって、「知らない事を知っている」事は、「運命」について考えるよりも大切では無かったのだ。 彼は彼が彼である為に、「運命」の答えを探し続ける"筈"なのである。 勿論、彼が彼である事を望むならば、彼は既に「この部屋から冒険している」事になる。 彼は、部屋を出ている"筈"なのだ。 所が、彼は未だに「未知の冒険」へと出掛けた訳では無い。 未だ「知っている場所」を歩いているに過ぎない。 彼は、「部屋」の外が「家の中」であることを知っているのだ。 勿論、彼にとって「歩く」と言うことは辛い事では無い。 毎日のように、食事を取る為、トイレに行く為、彼は「部屋」を出るのだ。 しかし、「家」から出る必要は一切無かった。 彼は彼である為に必要だったのは、「屋内に居続ける事」であり、彼自身にとって、苦痛では無かった。 しかし、彼は、この事を「運命」だと感じた事も無かったし、そもそも、「運命が何か」を知らなかったのだ。 彼は「運命」を「さだめ」と読むこと自体が、「運命」なのでは無いかと考えた。 「運命」を「うんめい」と読む事は「運命」であったとしても、「運命」を「さだめ」と読む事は「運命」なのだろうか? 彼は、このまま「何か」を考え続ける事が「運命」だと思った。 彼にとって「運命」を「さだめ」と読んでも「うんめい」と読んでも、どちらでも良かったのだ。 彼にとって大切だったのは、「運命とは何か」であって、些細な事など気にしない"運命"にあったのだ。 彼は自分が考える「運命」が正しいのか、分からなかった。だからこそ、彼は考えた。 「冒険がしたい」と。 彼は「家」と呼ばれる場所から飛び出して、彼が考える「運命」が正しいのかを知りたかった。 彼は、こうして家を出る"運命"にあったのだ。
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