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「ああ―― 何だ兄貴か」
『何だは無いだろう。このあいだの返事を聞こうと思って電話したのに』
「返事?」
『忘れたのか? 整備工場やめて、家へ帰って来ないかって事だよ。それで大検受けて、父さんの友達の医大へ行くっていう――』
竜二は耳から電話を離すと、忌々しそうに顔をしかめた。
それからまだ話している兄の言葉を遮って「悪い、兄貴。俺今から仕事だから」と告げて、さっさと切ってしまった。
「今さらなんだよ……」
呟きながらヘルメットを抱え、部屋を出る。
このところ頻繁に兄が電話をして来るようになったのは、まとまり掛けている自分の縁談の為だと竜二には分かっていた。
相手は病院をいくつも持っている医者の一人娘で、兄―― いや妹尾家にとってはまたと無い良縁だ。
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