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「そんな事で押さえ付けたって、駄目なんだよ。尚更反発を招くだけだ。憎しみや暴力からは何も生まれない。俺がちゃんと言って聞かせるから」
「そんなもんかなぁ」
「そんなもんだ」
竜二は飲みかけのコーヒーをミホに渡すと、またバイクに向かった。
それを竜二に気付かれないように、そっと口に運んで一口飲む。
(やった!間接キッス)
「ミホ」
突然名前を呼ばれ、ミホはドキッとして缶を後ろに隠した。
「そこのスパナ取って」
「あ、ちょっと待って」
竜二に気付かれなかったことに、ホッと息を吐く。
ミホは脚立から飛び降りて、工具箱からスパナを取り出すと言葉を続けた。
「でも……綺麗だね、このバイク。私、赤いバイクなんて郵便屋みたいだから嫌いだったんだけど、この赤は凄く綺麗」
「お褒めにあずかって光栄です、お嬢様。でも出来れば『赤』じゃなくて『ワインレッド』って言って欲しいな」
ミホの差し出したそれを受け取り、竜二は笑った。
それから時計を見る。
十一時少し前だ。
ジュースの空き缶を床に置いてその上に片足で立ち、バランスを取っていたミホに向かって竜二は口を開いた。
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