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紫色の車は、真由子を後ろに乗せたまま凄いスピードで街のあちこちを走り回った後、通称『潜り橋』と言われる橋の近くの土手に止まった。
潜り橋は土手から少しスロープを降りた所から向こう岸へ架かっていて、大雨が降ったりダムが大量の水を放水したりすると河の中に沈んでしまうのでそう呼ばれている。
欄干が無く、年に何度か転落事故が起こるため、見通しの悪くなる夕方五時から朝六時までは通行止めになっていた。
「降りろよ」
運転していたリーダー格の金髪の男が、後ろのドアを開けて真由子の腕を引っ張った。
車の床に転がっていた酎ハイやビールの缶が、外へ落ちてカラカラと音をたてる。
「離して下さい!」
真由子が男の腕を振り払うと、持っていた鞄の蓋が開いて中身が散らばった。
慌てて財布を拾う。
わざとふらついた振りをして尻餅を付き、男は学生証を手に取ると真由子の前に立ちふさがった。
酒臭い息に、真由子は顔をしかめた。
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