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「やめてっ! 嫌っ! 嫌あぁっ! お願い助けて! お願い――」
激しく抵抗する真由子の口を手で塞ぐ。
咄嗟に、真由子はその指に思い切り歯を立てた。
「痛てえ!」
指を押さえて男は叫び声を上げた。
途端、シュッと空気を裂く音がして、真由子は胸に痛みを感じ恐怖で凍り付いた。
男の握ったナイフが胸をかすめたのだ。
「てめえ! 殺されたいのかぁっ !!」
男が狂ったように怒鳴り声を上げる。
「や、やめろよ。もうやめろよ! 保、ヤバイよ!」
それまでただ呆然と立っていた雅人は、真由子の胸を伝う血を見て慌ててナイフを手にした保にしがみついた。
「うるさいっ! 黙ってろぉおおぉっ !!」
「保、おかしいよ! おまえ今日変だよ! 今までこんな事したこと無い――」
その声に、真由子はハッと我に返った。
男たちはあのナイフを持った保という男を中心に、内輪もめをしているようだ。
今のうちに逃げるしかない。
真由子は胸を押さえてそっと立ち上がると、土手を駆け上がり堤防の上に出た。
一人の男がそれに気付いて叫び声を上げる。
「おい! 逃げたぞ!」
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