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「誰だ? ―― 誰かいるのか?」
「う……うっ…………うぅっ……」
帰って来たのは、噛み殺したような女性の泣き声だ。
ゆっくりと声のした方に近付いて目を凝らすと、小柄な少女がうずくまって泣いているのが目に入った。
長い髪が乱れて、口元には殴られて出来たような跡がある。
草の汁や泥で汚れたブラウスは引き裂かれていて、しかも左の胸元には血が滲んでいた。
財布をしっかり握っている以外、近くには持ち物らしき物も無い。
「酷いな……」
あきらかに誰かに暴行されたらしい姿に竜二は顔をしかめて呟くと、ジャンバーを脱いで少女の肩に掛けてやった。
「立てるか?」
十分程経って少女が落ち着くのを待って、竜二は話し掛けた。
少女がコクリと肯く。
「警察を呼ぼう」
竜二は携帯電話を取り出すと、少女に向かってそう告げた。
「嫌……嫌です! お願い、警察なんか呼ばないで!」
「でも、怪我もしているみたいだし、それに……すぐに病院へ行って診て貰った方がいい」
少女が長い髪を揺らし、首を横に振る。
「何でもないんです! 転んだだけです! 私が一人で転んで―― だから!」
激しく拒否する姿に、竜二は以前耳にした話しを思い出した。
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