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こういう事件の場合、その時の状況を事細かに話さなくてはならない。
いつ、何処で、誰に、何をどんなふうにされたのか。
それ以前に、男性経験があったのか無かったのか――
しかも犯人が見付かって裁判にでもなれば、公の場でそれを何度も繰り返す事になる。
被害者は被害者であるのにも関わらず、それによって好奇の目で見られたりしてまた辛い思いをするのだ。
小さく溜め息を吐き、竜二は携帯をポケットに戻した。
改めて話しかける。
「家は何処? ―― この近く?」
少女は黙ってうつむき、それから蚊の泣くような声で答えた。
「私―― 帰れない」
「えっ?」
「家にはもう……帰れない……」
「友達の所は?」
また首を横に振る。
「親戚は?」
「もう何処にも行けない……。行く所が無い……」
竜二は困って溜め息をついた。
こんな事になっては、そう考えるのも仕方ないかも知れない。
時計を見ると、もう三時近くになっている。
事情を話してミホの所に預けようかと思ったが、夜中の三時ではそれも出来なかった。
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