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それから徐に口を開く。
「葉月さん、これからの事だけど……。気分を落ち着けてよく考えてみても、本当に行く所がないの?」
葉月は肯いて、すがり付くような目で竜二を見た。
「ここに……ここに居ちゃ迷惑ですか?」
「別に迷惑じゃないけど――。俺は男で一人暮らしだし、女性の君が一緒に居るのは拙いんじゃないかな? 家の人が知ったら――」
「私……家にはもう帰れないんです。どんなに帰りたくても、帰る事が出来ない……」
そのまま俯くと、膝の上でギュッと手を握り締めた。
あんな事があった直後だ。
家族に顔を合わせられないと考えても、当然なのだ。
そんな気持ちは、男の竜二でも少しは理解できる気がした。
「だから、お願いです。ここに置いて下さい。私、掃除だって洗濯だって御飯の仕度だって、何だってやります。だから――」
俯いた葉月の目から、大粒の涙がポタポタと膝の上に落ちる。
「ここに……」
「分かった。好きなだけ居ればいいよ」
竜二の言葉に、葉月は手で顔を覆ったまま大きく肯いた。
(―― そんな事を言っても、そう長くは居ないだろう。じきに出て行くに決まっている)
竜二はそう思っていた。
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