― 第三章 ―

5/22
前へ
/277ページ
次へ
.  月曜日の夕方――  竜二が仕事を終えて帰り支度を始めた頃、雅人がバイクを押してやって来た。 「雅人」  目が合うと、少し離れた所で止まった。  心なしか笑顔が引きつっている。 「や、やあ。竜二、仕事終わり?」 「ああ。どうしたんだよ―― それ」  竜二は顎でバイクを示してから、雅人の方へゆっくりと歩き出した。  雅人のバイクは左側のハンドルとステップが歪み、ミラーは折れて無くなっている。  ウインカーはコードだけでぶら下がり、フロントフェンダーとカウルも割れ、おまけにガソリンタンクには小さな凹みがいくつもあり、左側全体に無数の滑走痕が付いていた。 「事故ったのか。いつだ?」 「あの――」 「土曜日だな?」  それまで目を合わせないようにしていた雅人が、顔を上げた。 「ごめん、竜二。せっかくいつもおまえに整備して貰ってるのに、こんな事になって」  竜二は雅人をじっと見ている。  その視線に耐え切れず、雅人はまた下を向いた。 .
/277ページ

最初のコメントを投稿しよう!

99人が本棚に入れています
本棚に追加