99人が本棚に入れています
本棚に追加
.
月曜日の夕方――
竜二が仕事を終えて帰り支度を始めた頃、雅人がバイクを押してやって来た。
「雅人」
目が合うと、少し離れた所で止まった。
心なしか笑顔が引きつっている。
「や、やあ。竜二、仕事終わり?」
「ああ。どうしたんだよ―― それ」
竜二は顎でバイクを示してから、雅人の方へゆっくりと歩き出した。
雅人のバイクは左側のハンドルとステップが歪み、ミラーは折れて無くなっている。
ウインカーはコードだけでぶら下がり、フロントフェンダーとカウルも割れ、おまけにガソリンタンクには小さな凹みがいくつもあり、左側全体に無数の滑走痕が付いていた。
「事故ったのか。いつだ?」
「あの――」
「土曜日だな?」
それまで目を合わせないようにしていた雅人が、顔を上げた。
「ごめん、竜二。せっかくいつもおまえに整備して貰ってるのに、こんな事になって」
竜二は雅人をじっと見ている。
その視線に耐え切れず、雅人はまた下を向いた。
.
最初のコメントを投稿しよう!