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夕方アパートに戻ると、何処からか良い香りがして来る。
こんな時はいつも、食事を作ってくれる人がいる事ほど羨ましいものはないと竜二は思っていた。
仕事を終え疲れて家に戻り、それから食事の支度をするなんて気にはとてもなれなくて、当然の事のように食生活はコンビニ弁当やカップラーメンのようないい加減な物になっていく。
竜二の場合も例外ではなかった。
けれども自由と引き換えに掴んだ生活なのだから、仕方ないのだ。
何かを得ようとすれば、何かを犠牲にしなくてはならない。
そんな事は、十分理解していた。
階段を上り、ポケットから部屋の鍵を出してドアノブを掴む。
途端にドアが開いた。
「お帰りなさい」
顔を出したのは葉月だ。
さっきからの良い匂いは、竜二の部屋からしていたのだ。
「ただいま」
竜二は何とも言えない暖かさを感じて、心の底からの微笑みを葉月に返した。
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