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それを野良犬目掛けて思い切り蹴飛ばす。
缶は見事に鼻面に当たり、犬は悲鳴を上げて逃げて行った。
「もう大丈夫」
ホッと溜め息が出た。
途端に竜二の背中にしっかりしがみ付いていた葉月が、パッと手を離して離れる。
「ごめんなさい。私ったら――」
その言葉に、竜二は葉月の手を取って無言のまま歩き出した。
不思議そうに葉月が顔を見る。
「あの……」
「君は俺に『ごめんなさい』ばかり言ってる」
「ごめんなさい」
「ほら、また言った」
「ごめん――」
そう言いかけて、葉月は手で口を押さえた。
「君は何も悪い事なんかしていないだろう? だから『ごめんなさい』なんて言わなくていい。俺には気を使わなくていいよ」
「でも――」
「君がいつまで俺の所にいるかは分からないけど、そんなに気を使っていたら同じ部屋でなんて暮らして行けないよ」
竜二は足を止めると、葉月の方を向いた。
「そうだろ?」
葉月が小さく肯く。
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