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「済んだ?」
「ええ」
「じゃあ、今度は下で食べる物を買おう」
CD売り場にやって来た葉月の手から衣料品の袋を取り上げて、竜二が小脇に抱える。
「あっ――」
「いいよ。買い物するあいだ、持ってるよ」
「ありがとう」
嬉しそうに微笑んだ葉月と共に階下へ下り、カートに籠を乗せて並んで歩く。
ごく普通のカップルにしか見えない二人に、当然のように試食販売の女性が声を掛けて来た。
「奥さん、味見して。美味しいわよ。これ一つあるとダンナさんのお弁当作る時、便利よ」
葉月は恥ずかしそうに下を向いている。
「はい、ダンナさんもどうぞ」
竜二は差し出された冷凍食品のフライドチキンを受け取って、口に入れた。
「どう?」
「美味い」
「でしょ? お一つどうですか?」
「でも、こいつが作ったものの方がもっと美味いよ」
竜二が葉月をチラリと見て告げた言葉を販売員は真に受けたようで、肩を竦めて「ごちそうさま」と返して笑う。
葉月は耳まで真っ赤になって、竜二の後ろに隠れた。
カートを押してまた歩き出す。
「さて―― 何を買おうか?」
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