99人が本棚に入れています
本棚に追加
/277ページ
.
雅人のバイクは竜二が思った通り、かなりの手間が掛かりそうだった。
しかし、夏の旅行シーズンが近付き仕事が忙しく、なかなか時間が作れそうもなく――
出来れば次の土曜日までには仕上げてやりたかったので、竜二は仕事を終えてから直すことにした。
火曜日の夕方、一旦アパートに帰って葉月と夕食を取ると、再び工場に戻った。
「妹尾。毎日仕事がキツイのに、遅くまでやってて大丈夫か?」
「ええ。最近は食事もちゃんと取ってますから」
帰り支度を済ませた富田が問い掛けると、竜二は額の汗を拭いながら答えた。
「なんだぁ? 彼女でも出来たか?」
「まあ……そんなところです」
さらっと言って除けた竜二に、富田は肩を竦めて笑った。
「じゃあ、戸締まり頼んだぞ」
「分かりました。お疲れさまです」
残業を終えて他の社員が帰ってしまっても、竜二は残って修理を続けた。
ふと時計を見る――
もう一時を過ぎている。
「今日は終わりにするか」
片付けをして戸締まりを確認し、アパートへ戻る。
以前ならこんな日は帰るのも怠くて、工場の休憩室で膝を抱えて寝てしまう事もよくあった。
でも今は、どんなに疲れていても家に戻るのが楽しかった。
待っていてくれる人がいる。
そう思うだけで、自然と足取りは軽くなった。
.
最初のコメントを投稿しよう!