― 第四章 ―

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.  雅人のバイクは竜二が思った通り、かなりの手間が掛かりそうだった。  しかし、夏の旅行シーズンが近付き仕事が忙しく、なかなか時間が作れそうもなく――  出来れば次の土曜日までには仕上げてやりたかったので、竜二は仕事を終えてから直すことにした。  火曜日の夕方、一旦アパートに帰って葉月と夕食を取ると、再び工場に戻った。 「妹尾。毎日仕事がキツイのに、遅くまでやってて大丈夫か?」 「ええ。最近は食事もちゃんと取ってますから」  帰り支度を済ませた富田が問い掛けると、竜二は額の汗を拭いながら答えた。 「なんだぁ? 彼女でも出来たか?」 「まあ……そんなところです」  さらっと言って除けた竜二に、富田は肩を竦めて笑った。 「じゃあ、戸締まり頼んだぞ」 「分かりました。お疲れさまです」  残業を終えて他の社員が帰ってしまっても、竜二は残って修理を続けた。  ふと時計を見る――  もう一時を過ぎている。 「今日は終わりにするか」  片付けをして戸締まりを確認し、アパートへ戻る。  以前ならこんな日は帰るのも怠くて、工場の休憩室で膝を抱えて寝てしまう事もよくあった。  でも今は、どんなに疲れていても家に戻るのが楽しかった。  待っていてくれる人がいる。  そう思うだけで、自然と足取りは軽くなった。 .
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