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アパートの少し手前でエンジンを切って、駐車場までバイクを押して行く。
部屋を見上げると、カーテンの隙間から灯りが洩れている。
竜二は静かに階段を上がり、自分で鍵を開けて部屋に入った。
「ただいま……」
小さな声で告げたが、返事はなかった。
靴を脱いで部屋へ入ると、葉月はベッドにもたれて眠っていた。
帰りの遅い竜二を待つうちに、眠ってしまったのだろう。
そっと抱き上げ、ベッドに寝かせてタオルケットを掛けてやる。
余程疲れているのか、葉月はそれでも目を覚まさなかった。
ふと気付くと、テーブルの上にあのスケッチブックが広げてあった。
鉛筆でデッサンされていたのは、竜二の寝顔――
「いつの間に……」
呟いてフッと笑う。
それから、静かな寝息を立てている葉月に目をやった。
しばらく絵を眺めてから、スケッチブックを葉月の枕元に置く。
それから長い黒髪を撫でて、額にそっと口づけた。
こんなにも心を和ませてくれる葉月が、知り合ってからまだ四日しか経っていない女性だなんて不思議な気がした。
葉月は自分を必要としてくれている。
そして――
食事の支度や生活面の事だけでは無く、心から葉月を必要とし始めている自分に竜二はもう気付いていた。
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