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「妹尾、ちょっと――」
その日竜二が工場に着くと、すぐに富田が声を掛けて来た。
気のせいか、周りの人間が余所余所しい感じがする。
「はい。何か?」
「ちょっと事務所に来てくれないか」
「はい」
事務所に入って行くと、富田は「気を悪くしないでくれよ」と前置きしてから話を始めた。
「今朝ここへ来たら、昨日集金して金庫にしまっておいた金が無くなっていたんだ。それで……おまえ、昨日も遅くまで残っていたし、何か知らないかと思って――」
それだけで事情が呑み込めた。
つまり――
「俺を疑っているんですか?」
「別にそんな事は言っていない。ただ……」
「『ただ』何ですか? 俺が暴走族だから―― 警察に捕まったこともあるから、泥棒ぐらいやるだろうと思ったんですか?」
「おまえが取ったなんて思ってないよ」
少し顔を歪めながら富田は否定したが、竜二はそうは感じ取れなかった。
両手をギュッと握り締める。
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