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「なら、何故みんなの前で訊かないでこんな所に呼んだんです?」
「それは……」
「俺が取ったって言った時の事を考えたからでしょう?」
「何か知っていたら、話して貰おうと思っただけだよ」
竜二は唇を噛んだ。
そしてクルリと背を向けて、事務所を出ようとした。
「妹尾!」
「今日は帰らせて下さい」
そう言い残して事務所のドアを開けると、みんなの視線が一斉にこっちを向いた。
「そんな事する奴には見えなかったけどな……」
「しっ!」
誰かの声が聞こえて来た。
それはきっと、ここにいる多くの人間の思いだろう。
そう思えて、竜二は苦笑を漏らした。
黙って足早に工場の中を突っ切り、フルフェイスのヘルメットを被ってバイクにまたがる。
珍しくエンジンを思い切り吹かし、キュキュッとタイヤを鳴らして竜二は道へ飛び出した。
「畜生……畜生! 畜生っ !!」
大声で叫びながら、129号線を南下して行く。
悔さに涙が溢れる。
何度も吐き出す息が、視界を曇らせる。
竜二は途中で脇道へそれると、安岐川の土手にバイクを止めた。
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