― 第四章 ―

14/30
前へ
/277ページ
次へ
. 「保。雨が降って来たし、酷くならないうちに帰るわ」 「分かった。じゃあ土曜日な、中川」  軽く手を挙げ、中川は走り出した。  信号を左に折れて、129号線の旧道に入る。  安岐川に沿って走っているこの道は、民家の間を緩やかにカーブしながら通っている細い道だったが、信号がほとんど無いため中川は好んで利用していた。  高浜市内に入り、古い商店街が見えて来た。 「ちっ。嫌な事思い出しちまった」 『キタジマ写真館』と書かれた看板を見て、中川は呟いた。  あの日、保が誤って殺してしまった少女は確か『喜多嶋』といった。  黒くて長い髪の、人形のように綺麗な娘だった。  ちょっかいを出したくなった保の気持ちも、分からないではなかった。 (もしあのまま事が思うように進んでいたら、俺も便乗していたかも知れなかったな。いい女だったし―― そう、ちょうどあんな感じの……)  真っ直ぐな道の先、ヘッドライトの中に傘も差さずに立っている髪の長い女が目に入った。  照らし出された女が、ゆっくりと振り向いてこちらを見る。  次の瞬間、中川は我が目を疑った。 .
/277ページ

最初のコメントを投稿しよう!

99人が本棚に入れています
本棚に追加