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「う……嘘だろ?」
それはまさにあの夜の――
「わぁあああぁっ!」
中川は思わず叫び声を上げた。
点滅信号の交差点を右折して、バイパスへと向かう。
「あの女だ!あの女だっ !! 死んだはずなのに!幽霊 !? そうだ、幽霊なんだ!何で―― 何で俺の所に !? 恨むんなら保を恨んでくれよ!」
不意に背筋がヒヤッとした。
続いて耳元に、息のような物が掛かる。
『やめて……嫌………』
「うわあぁ!赦してくれっ!俺が悪かったよ、勘弁してくれぇっ!」
その声から逃げようと、中川はますますスピードを上げた。
『嫌ぁあああぁっ!……助けて、お願い……助けて!』
「ひぃいいいぃっ !!」
言葉とも音とも付かない声を上げて、フルスロットルで赤信号の交差点に突っ込んで行く。
途端に爆音のようなクラクションが鳴り響いた。
激しいブレーキの音が耳を劈く。
ロックされたタイヤに乗って迫り来る巨大な車体が、中川の瞳に映る。
順調に走行していた大型トレーラーが、突然目の前に飛び出して来た小さなバイクを避ける事など限り無く不可能に近かった。
次の瞬間――
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