99人が本棚に入れています
本棚に追加
.
「はい。どなたですか?」
「あの――」
ミホは女性の顔を見て、ハッと思い出した。
このあいだそこのスーパーで、Tシャツを見て竜二と間違えたあの人だった。
(じゃああのTシャツはやっばり竜二のTシャツで、この人が竜二のTシャツを着ていた人で、この部屋にいるっていう事は――)
ミホの頭の中は真っ白になった。
「あの、竜二のお友達ですか?」
女性が『竜二』と呼び捨てにしたのを聞いて、益々パニックになる。
「どうぞ、彼はいないけど良かったら入って下さい」
「あ……はい」
女性に誘われるままに、ミホは部屋に入った。
キッチンの方を向いてベッドの横に座る。
「紅茶でいいかしら?」
「え? ええ……」
その人は迷いもせずに紅茶を出して、ティーポットに入れている。
ミホは、何故か初めて来たように緊張していた。
綺麗に片付いた部屋の中を見回す。
小さな食器棚には、このあいだまで無かった真新しいペアのマグカップ。
テーブルの上には、近所の牛乳屋の自動販売機でしか買えない牛乳の空き瓶に、数本のコスモスが揺れている。
.
最初のコメントを投稿しよう!