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「ドンマイ! ドンマイ! バッター勝負で良いよー!」
そう言いながらボールを投げ返してくる。
どうやら盗塁は俺のせいにされたらしい。
いや、今のはおまえのせいだろ? ピッチャーに責任押し付けんなよ。正直に謝ろうぜ?
……試合終わったら説教だな。勝っても、負けても、絶対に説教してやる。
俺はズレた帽子を直しながら左手首を使い、簡単にグラブでホールを受け取ると、何かを感じ取り目線を下、滑り止めの石灰へ向ける。
それを拾い上げ目をつぶり、大きく深呼吸をしながら手の上で何度か弾ませると、それをプレートにたたき付ける。
そしてホームベースを正面に構えるとグラブを胸元まで上げ、その中で摘むようにボールを握る。
そこから目を正面に向けると大きく振りかぶり、プレートの上に右足を乗せて左の太ももを腹にあたるまで上げ、それを軽くグラブで叩くと左足を低い位置で伸ばし、体重をその足に移動させる。
スパイクの歯が地面に刺さった瞬間に腰から上。上半身が回転し、グラブを脇に当てるのとほぼ同時に右肩が回転し、肘が肩の上に回る。
そしてそのすべての勢いを乗せたボールを放つ。
俺のMAX154km/hも間違いなく超えている。
そいつもバットを振るが一瞬にしてボールはさっきよりも大きな音を立ててミットに収まる。
主審のストライクコールが入り、俺は両肘を腰に当てガッツポーズをとると雄叫びのような声をあげていた。
木陰、観客席の下にあるベンチに入るがここも熱が篭って暑い。
グラブを放り、椅子に乗せるとその隣に自分も座る。
「スゲーじゃん。よく押さえたな?」
今日、先発投手として登板した高校でのクラスメイトが言う。
「当たり前だろ?」
そう。当たり前だ。
俺達は野球が好きで、ここまで来た。
俺達は野球が楽しくて、ここまで来た。
だけどソイツは野球をやっている間、一辺たりとも表情を変えず、まるで作業のように試合をこなす。
それが、その行動が。
楽しくないと。
嫌いだと。
そう言われているような、自分達が信じて来た事を否定されている気がしてならない。
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