零 土砂降りの雨の中

2/4
71人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
「君。傘も差さずにどうしたんだい?」 土砂降りの雨の夜。 道の端でしゃがんでいる幼い少女に、男は自身の傘を傾けながら問いかけた。 「傘、持ってないから」 少女はぬかるんだ地面に指で絵を描きながら答える。 「お父さんやお母さんは?」 「知らない」 男の顔を見ることなく淡々と答える少女。 「知らないとは、どういうことだい?」 素っ気ない少女に怒ることなく、男は尚も優しく訊ねた。 そこでようやく、少女は顔を上げる。 「父様と母様は、『お前は私達の子供じゃない』って言ったの。 だから、私に父様と母様はいないの」                
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!