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「君。傘も差さずにどうしたんだい?」
土砂降りの雨の夜。
道の端でしゃがんでいる幼い少女に、男は自身の傘を傾けながら問いかけた。
「傘、持ってないから」
少女はぬかるんだ地面に指で絵を描きながら答える。
「お父さんやお母さんは?」
「知らない」
男の顔を見ることなく淡々と答える少女。
「知らないとは、どういうことだい?」
素っ気ない少女に怒ることなく、男は尚も優しく訊ねた。
そこでようやく、少女は顔を上げる。
「父様と母様は、『お前は私達の子供じゃない』って言ったの。
だから、私に父様と母様はいないの」
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