繊細

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その日は夏祭り。 父は仕事の関係か、夕方には帰る。 夜になる頃には父は一度戻り、後日またくる。 俺は、兄と婆ちゃんと父を見送る。 なぜかそこに寂しさはない。 兄がいるからか、心が病んでいるのか…。 婆ちゃんに連れられて、俺と兄は祭りに向かう。 俺にはいつもの路地。 違うのは、そこに兄がいること。 たったそれだけなのに、全く違う路地に感じる。 路地を通り抜けると、アーケードのある商店街。 距離は短いけど、子供の俺には十分長く感じる。 所々左右にある屋台や露天。 いい匂いと、わずかな人々の熱気。 普段は欲しくもないモノでも、雰囲気がそうさせるのか、立ち寄る場所ごとに欲しく感じる。 婆ちゃんはその点厳しい。 簡単には買ってもらえない。 たまに来る兄もそれは分かっているのか、買って、と、おねだりすることもなくアーケードの終点へ。 そのアーケードを越えると、駅と国道をつなぐ駅前通りがある。 そこは大人達が浴衣姿で櫓の回りを踊ってる。 太鼓に笛に、大音量で流れる唄に合わせて踊ってる。 中には子供も。 老若男女が楽しそうに。 俺は当時、その場所よりも屋台や露店が並ぶ商店街のほうが好きで、あまり駅前通りは好きでなかった。     余談だが、大人になり、思い出したかのように祭りを久しぶりに見たくなり一度訪れたことがある。 その時は逆に、駅前通りにしばらくたたずんで、違った感情を感銘した。
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