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「うおぉぉ!嘘だろ!?ちょっと目を離しただけじゃんよ!!」
狭い台所、神川 瞬が大学へ通うために借りているアパートが今、火災の危機に陥っていた。
ドン!ドン!ドン!
「おい!瞬!開けろ!!」
瞬が目前の熱気に嫌な汗をかいていると、玄関から聞き覚えのある声が響いてきた。
「チッ。なんて間の悪い……」
舌打ちとともに呟くと玄関へ走る。
「誠次か!悪いが昨日大負けしてな!来月の給料日まで待ってくれ!!」
握り拳の触れるドアから聞こえた瞬の怒声に、野々村 誠次は唖然とした。
こんな時までこの男は……。
ガツン!!と、誠次は扉を蹴る。
「んなこと言ってる場合かよ。お前またやりやがったんだろが!とりあえずここ開けろ!」
扉の奥から「うっ」という呻きと同時、鍵の開く音が漏れる。
「入るぞ」
誠次がドアを開けると、途端に有害そうな黒煙とともに強烈な刺激臭が鼻を突き刺す。
煙の先ではフライパンが火柱を上げているところだった。
「……」
誠次は無言のまま玄関の靴棚脇にある消火器を持ち上げると、慣れた手つきでフライパンを鎮火した。
「一応聞こうか。何してたんだ」
誠次は振り返るとあらためて瞬を睨む。
対して瞬は笑顔で舌を出した。
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