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攻撃を受け流された野生竜は再び上昇し、体勢を整えて再び襲いかかってくる。
竜が巨体であるが故に機敏な方向転換ができないことが、唯一の救いだった。
通りに再び、不快な金属音が鳴り響く。
野生竜が過ぎ去った後のワルトの手には、大きく折れ曲がった剣が握られていた。
「万事休す、か……」
ワルトの額に汗がにじむ。
竜が来る。今度はまた正面。
ワルトは使い物にならなくなった剣を投げ捨て、野生竜の進路から逃れようと身を低くした。
しかし、降下のスピードに乗った野生竜はあっという間に迫ってくる。
間に合わない。
竜使いの直感が、そう告げる。
それでも訓練された身体だけは、衝撃に備えて反射的に身構えていた。
そのとき。
どこからともなく大きな羽ばたきの音が聞こえたかと思うと、背後からワルトを追い越していった。
騒がしい音を伴って現れたのは、何十羽もの黒い鳥の群れだった。
鳥の群れはまで黒い弾丸のように、迷うことなく野生竜に襲いかかる。
驚いた野生竜はとっさに上昇して逃れようとするが、おびただしい数の鳥に翼を打たれて失速し、地響きを立てて地面に墜落した。
「助かった……」
野生竜の墜落によって舞い上がった土つぶてを腕で受けながら、ワルトは小さくつぶやいた。
ワルトの危機を救った鳥の群れ。
生まれたての赤子ほどの、鳥としては大きな黒い体を持つこの鳥の正体は、軍用カラスである。
軍の救援が到着したことを悟り、ワルトはほっと胸をなでおろした。
しかし、安心するにはまだ早いことは、ワルトもよくわかっていた。
現状は、まだ一頭の野生竜を落としたに過ぎないのだ。
野生竜が軍用カラスに気をとられている隙に、ワルトは建物の陰に隠していたアナをエリーのいる家の中に避難させた。
アナを家の住人に頼んでから、再び外に出る。
ワルトは野生竜と軍用カラスの入り乱れる上空へ、何かを探して目を凝らした。
そしてワルトは、ようやく目的のものを見つけた。
動揺する野生竜たちの動きを見計らい、通りを村の外、仔竜のいる広場とは反対の方向へ真っすぐに駆け出した。
走りながらワルトは空を見上げ、右手を高く上げて振る。
もうすぐ通りを抜けて村の外に出るというところで、背後から、大きな影がすっとワルトを追い越した。
影が通りすぎると、ワルトの姿は村の通りから消えていた。
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