256人が本棚に入れています
本棚に追加
曖昧な自分の返事を切り捨てるように、ワルトは前方をきっと睨む。
「何より、今はこの野生竜どもをなんとかするのが先だ。テレー、伝令で頼んでおいたものは?」
けたたましく騒ぐ野生竜たちの鳴き声が、二人の会話を妨げる。
その数は、もう四、五十頭ほどにまで膨れあがっていた。
「もちろん用意したよ。あと、それもついでに」
テレーは右手で手綱を操りつつ、竜の背にくくりつけた荷物の中にある一本の長銃を左手で指差した。
荷物から取り出した長銃は、立てると長身のワルトの腰よりも高い位置に柄が届くほど。白く艶のあるフレームの周りには銀の装飾が施されている。
騎乗用に軽めに作られてはいるものの、銃身はずしりと重たい。
ワルトはその白い長銃を軽々と取り上げると、近くに積んであったゴーグルを手に取って竜の左肩に立った。
そして首から下げた銀の竜笛(りゅうてき)を制服の下から取り出して口にくわえると、深く息を吸い込んで空に向かい吹き鳴らした。
人の耳には聞こえない高音。
何も知らない人がこの光景を目にしたなら、ワルトは鳴らない笛を懸命に吹こうとする子どものように見えるかもしれない。
ワルトは口から笛を離したかと思うとおもむろにゴーグルをはめ、長銃を手にひょいと竜から飛び降りた。
空へ飛び出したワルトの足下には、エタハ村の民家が並んでいる。
そのワルトの足と赤茶けた砂色の屋根との間を、すっと大きな影が遮った。
ワルトはまるで塀から飛び降りたように、軽々とその影に着地する。
影の正体は、竜である。
銀の口輪や手綱はテレーの竜と同じだが、テレーの竜ほど華奢(きゃしゃ)ではなく、がっしりとした筋肉が目を引く。
鱗は淡い象牙色で、翼は肩口から全体にかけて焦げ茶色、風切羽は光沢のある深い青緑色をしている。
ワルトは手綱をとって竜を操り、少し上昇させてテレーの竜の隣に並んだ。
「西だ!」
ワルトは叫んだ。
「西の沼地へ竜をおびき出すぞ。ここで戦うと、落ちた竜がそのまま民家に激突する!」
最初のコメントを投稿しよう!