256人が本棚に入れています
本棚に追加
体液の臭いに誘われて村に降下しようとする野生竜は、今のところ軍用カラスが何とか防いでいる。
しかしいくら体力のある軍用カラスといえども、上空に舞う数十頭の野生竜を相手に先ほどのような一斉攻撃を続けるのは効率が悪い。
それは、ワルトもテレーもわかっていた。
「了解した。作戦は、いつもの竜狩りの方法で。スキッダルにもそう伝えておいて!」
そう言うとテレーは竜を右に旋回させ、後方の野生竜の群れの外縁をなぞるように飛んで行った。
ワルトは手綱を引いて竜を少しだけ上昇させて減速し、やや遅れてやって来た軍竜の横に並んだ。
軍竜の上には、男が立っていた。少し伸びた銀色の髪が、黒い服によく映えてくっきりとなびいている。
男が乗る竜は、ワルトやテレーが乗る軍竜とはまた違って少しずんぐりとしていた。
竜騎士の竜よりスピードや機敏さにおいて劣るものの、よく手入れされた鱗と翼は野生竜のそれとはやはり一線を画している。
「スキッダル、よく来てくれたな。これから野生竜の掃討に入る。作戦は竜狩りと同じだ。スキッダルはまず、この野生竜どもを西へおびき出してくれ。協力よろしく頼んだぜ!」
スキッダルと呼ばれた銀髪の男はワルトに顔を向けることなく、ただ右手をすっと上げた。
彼なりの了解の合図である。
「ったく、いつもこうだ。ま、あいつ『らしい』っちゃらしいが」
ワルトも右手で同じ合図を返すと、竜の頭を左に向けた。
竜はゆっくりと旋回し、野生竜の群れの外側を半時計回りに飛び去っていった。
スキッダルは竜を降下させ、軍用カラスが集まる付近に接近した。
「アレクサス、Escendis (上昇)!」
スキッダルの低く通る声が空に響く。
すると、軍用カラスの群れの中からひときわ体の大きなカラスが一羽、ゆっくりと浮上した。
「Insistis (ついて来い)!」
スキッダルは命令をかけて、野生竜の群れの中心へ竜を飛ばした。
大将カラスのアレクサスはしゃがれた声で大きく一声鳴くと、スキッダルの竜の後に続いた。
黒々としたカラスの群れはアレクサスの鳴き声に呼応して、大将カラスの後を追う。
カラスの群れが空を移動する様は、まるで一頭の巨大な黒竜が飛んでいるかのようだった。
最初のコメントを投稿しよう!