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野生竜の群れの中心に辿り着くと、スキッダルは旋回してカラスたちが集まるのを待った。
軍用カラスの群れがスキッダルに追いついたところで、新たな命令をかける。
「Perturbis (かき乱せ)!」
スキッダルの鋭い号令に続き、アレクサスが一声鋭い鳴き声をあげる。
それを受け、他の軍用カラスたちはそれぞれが野生竜の群れの中へさっと散開した。
カラスたちが形作っていた黒い竜の姿は、煙のようにかき消えた。
カラスはそれぞれ野生竜の鼻先にわざと飛び交い、鳴き声をあげて野生竜を挑発する。
もともと周辺に漂う竜の体液の臭いで荒ぶっていた竜はますます理性を失い、怒りをあらわにしてカラスを追い始めた。
「Recolligis, et insistis(集まれ、そして、ついて来い)!」
スキッダルの命令に呼応して、アレクサスの太い鳴き声が再び響く。
スキッダルは先ほどワルトとテレーが向かったのとは逆の方角、西へと軍竜を飛ばした。
アレクサスはスキッダルを追い、他のカラスはアレクサスを先頭に、再び群れをなして後を追う。
その後ろを、野生竜が一斉に追いかけはじめた。
スキッダルは時折指示を出し、自在にカラスの群れを操る。
カラスは散開と集合を繰り返して竜を翻弄しながら、野生竜をどんどん村から引き離していった。
やがて辺りの空気が、土臭い香りを含んできた。
スキッダルとカラスは野生竜をひきつれて、沼地の上空までやってきていた。
スキッダルは再びカラスに命令をかけ、高度をぐっと低空に下げた。
その直後、二発の銃声が遠く沼地の先までこだました。
野生竜の後方から、ワルトとテレーが竜の上に仁王立ちになって長銃を構えている。
二人の目線の先で、はらはらと二頭の野生竜が沼地に落ちた。
泥が周囲に高く跳ね上がり、大粒の雨のように地面にばらばらと降り注ぐ。
続いて、また二発の銃声。
野生竜の巨体が更に二つ、沼地に落下した。
竜には、並んで飛ぶ相手がいると競い合って加速する習性がある。
従って多数の竜が並んで飛ぶ場合、群れの飛行速度はどんどん早まっていく。
そのため竜狩りは通常、なるべく五頭ほどで群れた野生竜を狙うのが基本だ。
野生竜たちが加速して囮(おとり)に追いついてしまう前に、全頭撃ち落とすためだ。
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